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浦和地方裁判所 昭和42年(ワ)413号 判決 1968年2月29日

原告 東京堂商事株式会社

被告 山田良美

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告は「被告は原告に対し、金三〇万円およびこれに対する昭和三三年六月二一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因として、左のとおり陳述した。

(一)  原告は、金額三〇万円、満期昭和三三年六月二〇日、支払地・川崎市、支払場所・東京相互銀行川崎支店、振出地・川崎市、振出人・被告、振出日・昭和三三年三月二〇日、受取人兼第一裏書人・鎌田武介、第一被裏書人兼第二裏書人・株式会社ユナイテッドモータース、第二裏書人・原告である約束手形一通を現在所持している。

(二)  原告は被告に対し満期日たる昭和三三年六月二〇日に支払のための呈示をしたが、その支払を受けられなかった。

(三)  そして、本件手形は昭和三六年六月二〇日時効により手形上の権利は消滅したが、その当時から原告は本件手形の所持人である。

(四)  振出人たる被告は右のように、本件手形の手形上の権利が時効により消滅したため手形上の債務金三〇万円および満期以後の手形法所定の利息の支払を免れ、これに相当する利益をえているので、原告は被告に対し、右利得金三〇万円およびこれに対する昭和三三年六月二一日(満期の翌日)以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(五)  被告の主張事実は否認する。

二、被告は主文同旨の判決を求め、答弁として左のとおり述べた。

(一)  請求原因事実中、第一項ないし第三項は認めるが、第四項の被告が利得を得ているとの点は否認する。

(二)  原告主張の本件約束手形については、振出日欄、受取人欄を除いて被告が作成したことは認めるが、被告が訴外鎌田武介に対し手形上の原因債権に基いて交付したものではない。本件手形は、昭和三三年三月下旬頃銀行などから金融をうける目的で、振出日欄受取人欄白地のまま作成し、横浜市鶴見区上末吉町一三五番地富士鋼板株式会社内の被告の机の抽出に入れておいたところ、その頃訴外宮崎精一が被告に無断で持ち出したものである。被告において何らの利得も受けていない。

三、証拠<省略>。

理由

(一)  原告は額面金三〇万円、満期昭和三三年六月二〇日、支払地川崎市、支払場所東京相互銀行川崎支店、振出地川崎市、振出人被告、振出日昭和三三年三月二〇日、受取人兼第一裏書人鎌田武介、第一被裏書人白地、第二裏書人株式会社ユナイテッドモータース、第二被裏書人白地の約束手形一通を所持していること右手形につき満期日たる昭和三三年六月二〇日に支払のために呈示したがその支払を拒絶されたこと、右手形より生ずる権利が時効により消滅したこと、その当時原告が所持人であったことは当事者間には争はない。

(二)  被告は、本件手形を単に作成し、自己の抽出に入れておいただけのものであって、振出したものではない旨主張し被告本人尋問の結果において、その旨供述するが、弁論の全趣旨により、この点にわかに措信することができない。他に、被告の振出行為を否定すべき証拠はないから、被告は本件手形を振出したと認めるのが相当である。だとすれば、被告は、振出人として手形法第八五条にいう利益を受けているときは、原告に対し償還義務があるといわなければならない。

(三)  ところで、原告は、被告が本件手形上の債務を消滅時効により免れ、そのため利益を取得した旨主張するが、手形法第八五条にいう振出人の「受けたる利益」とは、手形を振出すに当って、その原因関係において受けた利益をいうのであって、それが積極的であると否とは問わないけれども、手形上の権利が遡求権保全手続を怠ったことにより、または時効によって消滅したことによって振出人が手形上の債務を免れた利益をいうものではない。原告の右主張は、それ自体失当であるといわなければならない。他に被告において前示利益を得ていることの主張、立証はないので原告の請求を理由なしとして棄却する。<以下省略>。

(裁判官 赤城政夫)

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